「特別支配株主の株式等売渡請求」制度
第116号
中小企業では、過去の相続や資金調達、取引などの経緯から、オーナー経営者以外に少数株主が存在しているケースが少なくありません。普段は問題とならなくても、事業承継や相続などの際には、少数株主の存在が障害となる場合があります。
少数株主から株式を買い取り、会社の支配権を100%集中させることを可能とする「特別支配株主の株式等売渡請求」が創設されてから1年が経ちました。ここで、あらためて内容を確認していきたいと思います。
「特別支配株主の株式等売渡請求」制度
1.「特別支配株主の株式等売渡請求」
議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、他の株主の全員(少数株主)に対してその保有する会社の株式の全部を売り渡すことを請求し、買取ることができる制度。
以下のような点で、オーナーへの支配権の集中が容易になる制度といえます。
・ 定款の変更が必要ない
・ 売渡株主個々ではなく会社の承認でよく、株主総会の決議は求められていない
・ 少数株主には取得日の20日前までに通知すれば足りる
・ 売渡株主個々への請求も事実上会社が行う
・ 取得日に自動的に買取りの効果が生じる
2.手続き
➀ 特別支配株主から対象会社への通知
特別支配株主は,株式等売渡請求をしようとするときは,対象会社に対し,株式等売渡請求の条件(交付する金額,株式を取得する取得日等)を定め,対象会社に通知する必要があります。
② 対象会社による承認
特別支配株主は,株式等売渡請求につき対象会社の承認を受けなければなりません。
対象会社が取締役会設置会社である場合は,承認するか否かの決定は,取締役会の決議によらなければなりません。
③ 売渡株主等に対する通知
対象会社は,特別支配株主の株式等売渡請求を承認したときは,取得日の20日前までに,売渡株主等に対し,株式等売渡請求を承認した旨,特別支配株主の氏名又は名所及び住所,株式等売渡請求の条件等を通知しなければなりません。
④ 事前開示手続
対象会社は,売渡株主等に対する通知から取得日後6か月(対象会社が公開会社ではない場合,取得日後1年)を経過するまでの間,特別支配株主の氏名等や株式等売渡請求の条件等を記載した書面等をその本店に備え置き,売渡株主等による閲覧等に供しなければなりません。
⑤ 特別支配株主による売渡株式等の取得
株式等売渡請求をした特別支配株主は,取得日に,売渡株式等の全部を取得します。
⑥ 事後開示手続
対象会社は,取得日後遅滞なく,株式と売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の事項を記載した書面等を作成し,取得日から6か月間(対象会社が公開会社ではない場合,取得日から1年間),当該書面等をその本店に備え置くととともに,閲覧等に供しなければなりません。
3.税務処理
売渡株主は、売渡株式の売却価額が取得価額を上回る場合、売却益に対する課税があります。
4.終わりに
オーナー経営者に支配権を100%集中させる手段として、本制度の適用が有力な手段になります。詳しくは弊所担当までご相談下さい。